はじめに
本稿は、IoTとブロックチェーン、特にブロックチェーン開発プラットフォームであるSymbolと組み合わせて実現されるユースケースを妄想するシリーズの第0弾です。
第0弾といったのは、具体的なユースケースから外れる、そもそもIoTとブロックチェーンの利用シーンにおいて、何がうれしいのかをつきつめて考えてみたものだからです。
特定サービスを意図せず、汎用的な利用において、Symbolが、IoT×ブロックチェーンを実現するに適しているのかをひも解いていきます。
IoTにおけるブロックチェーンの利用シーン
考えてみてください。
そもそも、IoTとブロックチェーンを一緒に利用する用途ってなんでしょう?
IoTはモノのインターネットとよく聞きますが、端的に言うと以下のようなものです。
身の回りのモノがインターネットと繋がる事で、モノを介して入力された情報を、クラウドサービスで保存・加工し、その出力も実現できるモノです。
AppleWatchに代表されるスマートウォッチもIoTです。
心拍や脈拍などのバイタルデータを、時計型端末というモノを介して取得(インプット)し、それをインターネット上のクラウドにて保管して、分析・AIを駆使して「価値ある情報」(例えば不整脈のアラート、一定期間のアクティビティの達成通知など)を産みだし、端末から確認できるモノです。
では、そのようなIoT端末を、ブロックチェーンと掛け合わせる必要性は何かあるのか?
以下3点がポイントと思います。
- 耐障害性
- 拡張性(コスト含む)
- 相互運用性(それにより実現されるセキュリティ)
耐障害性
AppleWatchの裏側にあるクラウドはApple社が構築する中央集権型サーバーです。世界有数の会社なので、その堅牢性・耐障害性は高く、AppleWatchが世界中で販売されているのにも関わらず、サービスが止まることはそうそうありません。
ただし、IoT端末で新たなサービスを構築しようとしているベンチャーや事業体において、Appleなどの巨大企業と同じような対応ができるでしょうか?
多数のIoT端末が、24時間365日、未来永劫ノーダウンのシステムを構築することは容易ではありません。
その点ブロックチェーンを用いたサービスは単一障害点が無く、参加者がノードを持ち寄り分散データ保管するため、高い可用性が、低コストで維持することが可能なのです。
拡張性
IoTとブロックチェーンを話すうえで、拡張性は避けて通れません。
開かれたサービスあり、そのサービスに連結するIoT端末が、そのサービスの成長に従って、加速度的に増えていくようなものをイメージしてください。
地域、国内、世界と、サービスが拡張するにあたって、中央集権型サーバの導入時・拡張時・運用時の管理者の負担は莫大に積みあがっていきます。その負担は、サービス展開のスピードに影響し、サービスの鮮度さえ失いかねない問題を抱える可能性さえあります。
大量のIoT端末を繋げるうえで、その先のクラウド上のノードが、ブロックチェーンを用いて構成され、参加者がノードを立ち上げることで、導入時・拡張時の作業負荷やコストは分散化されるというブロックチェーンの利点は、IoTのサービス拡張のおいても有用です。
相互運用性
相互運用性とは、異なるシステム系の情報交換が、一定の規約に従いスムーズに行う事ができる様を指す言葉です。
中央集権型サービスにおいても、OpenAPIを公開することで、相互運用性を高めることは可能ですが、接続数・トラフィックが増大すると、サーバーリソースや運用上の負荷の問題の解決は困難です。
この点、先端のブロックチェーン技術においてはスマートコントラクトがあります。
サービスの在り方をチェーン上の規約として構築すること、つまり台帳共有というデータ形式と、プログラマブルなアクセス方式(分散台帳への作成・更新・参照条件の規約)の提供で、それを採用する参加者は、そのチェーンで展開されるサービスを等しく享受しうる事になります。
昨今、IoT(またはIoTゲートウェイ)のセキュリティ問題が謳われています。そこでIoTがクラウドサービスを利用する際に、ブロックチェーンによる一定の認証を通すことで、不正なIoTからの侵入を防ぐということが期待されます。
ユースケース:IoTを用いた汎用的なサービス構築
3つのポイントをもう少し具体化して考えてみましょう。
先のバイタルデータを収集するヘルスケアIoT端末の例を考えてみましょう。
中央集権の限界
AppleWatchの後ろには最適化された中央集権型サーバーが横たわっていますが、残念ながら各種バイタルデータを収集可能なIoT端末に繋がるサービスではありません。
iOS純正アプリに「ヘルスケア」がありますが、FitBitや、WithingsのActivité、GARMIN、GalaxyWatchなどなど世界中の規格に対応するには、商圏的な問題もあり、中々進まないでしょう。
これが、中央集権型サーバにおいて、OpenAPIの各種端末への適用・拡張は、管理者にとって負担がかかるというものです。
サービスの拡張性、相互運用性において、中央集権型サービスは限界があるわけです。
また前述の通り、巨大企業ではなく、企業規模が小さなヘルスケア端末が提供するサービスの耐障害性は、いかに堅牢に作ったとしても、インターネットテロ攻撃などの暴力に贖えるでしょうか?
単一障害点を抱える中央集権型サービスには、耐障害性においても限界があります。
非中央集権化による、スマートコントラクトを軸としたIoT利用
ここで、得られるバイタルデータについて、そのデータ形式を統一し、かつ拡張可能なものとして定義しながら、作成・更新・参照条件などアンカリングの規約を統一したチェーンを構築したらどうでしょうか?
ブランドの隔てなく、バイタルデータのアンカー情報がクラウド上に保管され、それを統括的に処理するサービスと結びつける事が可能になるでしょう。
新たなアウトプットサービスの提供が非常に活発になります。
サービスの在り方がプログラマブルに表現されたチェーンにおいては、分析やWeb上での表現に長けたプレイヤーが、ノードを立てて、アウトプットサービスを構築することになるでしょう。
ヘルスケア端末から得られたあらゆるバイタルデータをUXに優れた表現で提供するサービスが人気となるでしょう。
独自の健康チェックサービスを導入したり、健康器具やサプリメント、スポーツジムへの入り口として機能するサービスも現れるでしょう。
アンカー情報から広く実データを手繰りよせ、地域や国、世界的な統計を試みるサービスも立ち上がるかもしれません。
ヘルスケア端末を開発しなくとも、様々な参画プレイヤーが増えることが考えられます。
新たなIoT端末の開発障壁が低くなります。
一方、ヘルスケアIoT端末開発プレイヤーは、インプット端末の開発に特化することができます。
既にある規約に適合したデータ形式や、チェーンへのアンカリング方式を実装すれば、すでに公開されているサービスへのアウトプットが可能になるので、端末のデザイン・機能性や、センサー系の精度などで勝負をすることができます。
せっかく良い性能のIoT端末を開発しても、アウトプットが貧弱だと利用されない事がありますが、そのような心配なく、端末開発に専念できることになるでしょう。
トップランナーのメリットもあります。
インプット・アウトプット両面に通じリッチなものを提供するトップランナーのブランドでさえ、汎用サービスからのアクセサビリティを得られるのは利点です。
しかも、一定の規約さえ順守すれば、規約が認める拡張領域を活用するデザインにより、これまで通り、自らのロイヤリティを高めることも可能になります。
トップランナーにとって、端末やアウトプットサービスどちらかだけが気に入らないユーザを取り込むチャンスにさえなるのです。
参入事業が増えることにより堅牢なプラットフォームになります
このように様々な参画者が各々に利益に基づいてサービス参加することになると、自ずと参画ノードが増え、耐障害性に優れた基盤へと成長することになります。
もちろん、トランザクション処理量や、プライバシーの問題は抱える事になります。
特に個人情報や実際のバイタルデータの管理は、パブリックチェーン上には格納できないセンシティブなものであり、データ量的にも、チェーン上に刻まれるアンカーから参照可能な、オフチェーンやプライベートチェーンに保管することになるでしょう。
これらデータにアクセスする際のKYCや、公開範囲などは適切に設計する必要があります。
しかし、このようなデザインも含めて統合的に設計ができたならば、未来永劫利用可能なサービスの基盤となりうるのです。
Symbolの活用
SymbolブロックチェーンのIoTとの親和性はどうでしょうか?
すでにSymbolプラットフォームを活用したIoT基盤構築を推進しているIoDLT社のような例もあり、Symbolにおけるビルドイン機能と、豊富なAPIは、サービス基盤構築に有用なことは間違いありません。
耐障害性・拡張性
Symbolはブロックチェーン基盤であり、ブロックチェーンの黎明期からノーダウンでセキュリティ問題を起こすことなく稼働し続けているNIS1の後継プラットフォームであって、耐障害性は確約されているものです。
かつコンセンサスアルゴリズムはPoS+が採用されます。フルノードを運用するインセンティブが設定されるPoS+では、導入障壁が和らぎ、拡張性に富むプラットフォームだと言えます。
相互運用性
相互運用性において、Symbolのビルドイン機能がフル活用されるでしょう。
Symbolの相互運用性は、Polkadotのように、ローカル(パラチェーン)でスマートコントラクトを構築し、異なるブロックチェーン間の通信を仲介するためのグローバル(リレーチェーン)といった上位チェーンで全体のバリデートを行う方式はとっていません。
Symbolでは個々のプライベートチェーンを個別に独立して構築する事が可能です。
それではどのように相互運用性を実現し、それがIoTでも活用できるのかについて、サイト主の理解を段階的に解説します。
ハイブリッドチェーン
Symbolはパブリック・プライベート両面のチェーンを展開できるプラットフォームです。
KYCなどの認証や、アンカー情報はパブリックで公開・管理し、個人情報や生のバイタルデータはオフチェーンに保管しながら、スマートコントラクトに必要な属性情報(生年月日、性別、国籍、居住エリア等)を伴うトランザクションは、プライベートチェーン上で扱ったりと扱う情報レベルよって細やかに使い分けが可能です。
IoTとの組み合わせにおいても、DAOレベルの分散化が求められない、企業やコンソーシアム、またはコミュニティとしてのサービス実現であるならば、パフォーマンスにも優れたプライベートチェーンを積極的に利用すべきです。
モザイク制限、アカウント制限で実現するKYC
IoTからクラウドサービスのサービス利用につき、そのIoTがサービスを利用可能であるのか認証を行う際、SymbolにてKYCのためのチェーンを構築しておくのも手です。
SymbolにはKYCを実現するために有用な、モザイク制限、アカウント制限などのビルドイン機能があり、比較的容易にKYCを実現できます。
クロスチェーンスワップ
Symbolの相互運用性の肝となるビルドイン機能があります。
それが、Symbolのクロスチェーンスワップです。
Symbolでは、複数チェーンへの作用を不可分に更新することが可能となり、サービスの構築に際して、すべてのブロックチェーン機能・サービスを自らが構築することなく、相互運用する形でサービスを形づくる事が可能になります。
IoTからの認証チェーンの利用や、IoTから発生したデータの追跡を行うトレーサビリティのチェーン利用、はたまたIoTが第3者を介せずしてクラウドサービスを利用するなどのシーンにおいて必要となる、対価をトークン(Symbolにおけるモザイク)で支払う際のチェーン利用など、そのような異なる複数のパブリック・プライベートチェーンを組み合わせてサービス構築する上で、チェーン間の価値交換であったり、同期的な更新が不可欠であり、Symbolはそれを実現します。
アグリゲートトランザクション・マルチシグ
またSymbolでは、複数トランザクションを同時にバインドして処理可能なアグリゲートトランザクションがあります。
IoTの情報提供に対して、ユーザが対価を図り、両者のマルチシグによるトランザクション発行を実現するなどが可能になります。
REST-API
Symbolでは、上記のようなビルドイン機能が、非常にありふれたREST-APIで利用可能です。
冒頭に中央集権においてもOpenAPIを用いることで、相互運用性実現は可能であるとの話をしましたが、Symbolはブロックチェーン開発プラットフォームとして、ブロックチェーン技術を利用するための機能につき共通のOpenAPIを提供している点で、相互運用性を実現していると言えます。
またTypeScriptやJavaなどありふれた言語のSDKを準備している点、IoTからのアクセスにおいても、特殊な言語は不要な点、IoTからブロックチェーンの利用障壁を下げているといえるでしょう。
おわりに
IoT×Symbolで、具体的プロダクトではなく抽象的なユースケースの話を進めたのは理由があります。
ブロックチェーン技術は、代替機能があり、そちらが優れている場合には使われない、システム・サービス構築における採用技術の1つに過ぎません。
IoTとブロックチェーンを組み合わせる意味はあるのかを、自ら整理したかったからです。
私は、未来のサービスは、「IoT」が取得する大量なデータを「クラウド」に保存し、「AI」で解析して価値ある情報を「AR・MR・VR」にて提供するというものに進化していくと考えています。
上記の組み合わせにおいて、適切なアクセスコントロールを、スマートコントラクト用いて実現し、セキュアなサービスに仕立てる各パーツの媒介役として、ブロックチェーン技術が利用されていくのではないかなと考えています。
Symbolはそのような複合的なサービス立ち上げの夜明けに利用されるチェーンの1つであると考えています。