共助を促す地域通貨の実現– Symbolで実現する世界

NEM

はじめに

本稿は、ブロックチェーン開発プラットフォーム Symbolを用いることにより可能となるユースケースの1つとして

「地域通貨(トークン)」の導入から利用促進、その拡張について

以上を、考えていこうと思います。

(2020/8/27 改訂)The English version is now available. Please refer to the following

トークンエコノミー実現の課題

トークンというのはブロックチェーン技術に親和性のあるものであり、最も早期に実現されてきたものでした。

具体的には、ビットコインが、ブロックチェーン誕生と同時に生まれた、最初のサービスであり、最初のトークンといえるかと思います。

そしてビットコインを用いたサービスとして「カウンターパーティトークン」が産まれます。ビットコインベースのトークン発行サービスです。

このころホリエモンで知られる堀江氏が「HORIEMONCARD」なるトークンを発行したことが界隈で話題になったりしています。

しかし、作成されたトークンによる経済圏、つまりトークンエコノミーの創出をしているのかというと、実現できているとは言い難いものがあります。

単なる法定通貨と代替する価値の流通だけでは、トークンエコノミーの創出は難しいというのが定説になってきています。

わざわざ代替決済手段を利用する煩雑さが、継続の障壁となっています。

つまり法定通貨の代替手段ではなく、その利用シーンを創出しなければ、トークンエコノミーが動き出さないというのが課題となります。

地域通貨ユースケースの抱える課題

トークンエコノミーの利用シーンとして、地域通貨がブームとなっています。

ある地域(エリア・組織などある概念で括れる範囲)において利用されるトークンを創出し、その地域における経済活動に寄与するよう、その流通自体に価値が生じるように設計したものです。

地域通貨においても、法定通貨に代替する価値として定義した場合、具体的にいうと300円割引クーポンのような使い方となると、それはブロックチェーンのトークンである必要性は低いです。

そのあたりは「WHY BLOCKCHAIN」でも語られていますが、法定通貨単位の割引クーポンは「日本円+紙の割引券」が最も容易な代替手段があるため、わざわざブロックチェーンで決済システムを構築する意味がありません

偽装されにく集計が容易などの利点が、システムの構築・運用コストに見合うかは疑問と結論づけられています。

地域通貨にブロックチェーン技術を採用する意味はあるのでしょうか?

結論から申しますと、

地域通貨にブロックチェーンを採用するのは有用です。

むしろ、その方向性に舵を切ることができない利用方法が、サービスの持続性がないと言いかえても過言ではありません。

そもそも地域通貨に求められる役割とは?

地域通貨が一時の盛り上がりでなく、定着化するために必要なものは何でしょうか?

前項の通り貨幣的な流通ではなく、お金で表現されていない価値を流通させることで、ひいては地域の経済活動に寄与する働きかけが発生するようにデザインすることが、地域通貨のサービス利用の拡大・持続性につながるポイントと言えます。

言い換えると、お金で定量化されていない「権利」と紐づかせて地域通貨を設計をすることで、単なる代替決済手段から、お金で得られない「体験」を得られる唯一の「価値」になり得るのです。

これはブロックチェーンを利用するしない以前の話であって、その地域にある、またはつくることができる「価値」に着目せずに、地域通貨の成功はあり得ないという非常に根源的な話と言えます。

まとめますと、

地域通貨は、貨幣の代替ではなく、その地域だからこそ得られる「体験」や「権利」を可視化し流通させることで地域経済を盛り上げるもの

として、設計することが求められているのです。

地域通貨にブロックチェーンを採用すべき理由

地域通貨を、単なるお金の代替ではなく、「体験」「権利」など地域経済における価値の流通として設計したときにはじめて、地域通貨にブロックチェーンを採用すべき理由が産まれます。

地域通貨は地域経済における「価値」に結びつくため、その発行や頒布に透明性が求められる公共性を帯びます。

かつ、地域経済におけるサービスを受ける際に、対価である地域通貨の回収を確実に、詐称なく行い、その取引過程を記録し、改ざんされないという保証が必要になります。

つまり

地域通貨には「スマートコントラクトの必要性」がある

というのが、ブロックチェーンを採用する理由になります。

地域通貨にSymbolを採用すべき理由

ブロックチェーンによる「スマートコントラクト」が、地域通貨に求められるという話をしてきましたが、数あるブロックチェーンプラットフォームの中から、Symbolを採用すべき理由はあるのでしょうか?

結論から申しますと

Symbolで地域通貨を構築する利点は多数あります

地域通貨の発行・管理が「かんたん」

Symbolにおいては「モザイク」というビルドイン機能を使うことで、容易にトークン発行をすることが可能です。これは1つの利点と言えます。

ブロックチェーン採用における開発/運用コストにおいて、プラットフォームが用意するトークン発行管理機能を利用できるというのは、少なからず他ブロックチェーンよりも優位と言えます。

そのうえ、Symbolのトークン発行機能は非常に強力で、トークンの送受信において簡易的なメッセージを組み込むことできたり、トークンそのものにメタデータを括りつけることが可能となっています。

メタデータは奥が深いので詳細記事は以下をご参照ください。

モザイクとメタデータを利用することで、「お金の量」ではなく「資産」として、地域経済における「価値」「体験」をあらわすトークンを設計する事が可能になります。

ユースケース① 地域貢献活動と地域施設利用

地域貢献活動により発行されるトークンに、地域が持つ施設の利用権と利用日時・時間などが紐づいている設計をしてみたらどうでしょう?

具体的には、地域清掃活動に参加して貢献が認められた住人に対し、その地域が管理するテニスコート等スポーツ施設の優先的な利用の権利が与えられる。

一部の利用者に対してインセンティブを与える「権利」をトークン化した例です。

地域通貨によるインセンティブ導入が「かんたん」

またSymbolでは、トークンやアカウントのプロパティに応じた流通制限をビルドイン機能で提供してくれています。モザイク制限/アカウント制限といわれるものです。

制限機能により利用ユーザに対するインセンティブをデザイン可能になります。

ユースケース① 地域貢献活動と地域施設利用(続き)

前述の地域貢献者へ、地域の施設利用への優先的な利用権利を、もっと具体的に設計してみましょう。

地域の貢献者に対して、地域施設利用のため優先権をあたえるため、地域貢献時に発行されたトークンを持つユーザのみがアクセス可能な、先行予約システムをモザイク制限で実現するなどが考えられます。

モザイクの有効期限等も設計可能なため、地域貢献活動後1年間利用可能な「権利」などもデザイン可能でしょう。

地域通貨の利用者間の流通が「かんたん」

Symbolはスマートコントラクトに不可欠な、トランザクション実現に対して、いくつかのビルドイン機能を提供してくれています。

一番大切な機能として、モザイク機能で発行したトークンにつき、アカウント間のピアツーピアのメッセージ付き転送が、ビルドイン機能で提供されています。

地域通貨の「権利」「体験」を享受する際に、対価としてトークンを回収したり、更新をかけたりする仕組みを導入することが可能になります。

ユースケース② 地域貢献活動と地産地消

同じく、地域貢献者に対して、地域の事業者が心ばかりのお返しをする経済活動などはどうでしょうか?

①農業従事者と、②地域の飲食店/販売所/加工場などの地産の地消場、③消費者の3者の経済活動を設計します。

①農業従事者 ⇔ ②地消場:農作物提供

農業従事者が、地域農産物の形が悪いが味は良い「訳あり品」などを地産販売所や加工場に提供する代わりに、販売所から地域通貨を受領します。

または地域の飲食店に地産を提供する代わりに、地域通貨を受領します。

①農業従事者 ⇔ ③消費者 :労働力提供

農業従事者の支援として農作業を手伝ってくれた貢献者(市民や他農家、または農業体験者)に対して、農業従事者から貢献者へ地域通貨を譲渡します。

②地消場 ⇔ ③消費者 :商品提供

地域通貨を持つ貢献者は、地域の飲食店で地産地消のスペシャリテを味わえたり、地産農作物の販売所で「訳あり品」を安価・無料でいただけたり、同時に地産の加工品をいただけたりと、何かしら優遇を受けることができます。

上記のそれぞれの場面で、ピアツーピアのトークンの移動を、「権利」「体験」の提供時に、転送トランザクションとして、Symbolで実現することが可能になります。

つまり以下のような新たな経済圏の絵が描けるようになるのです。

地域通貨の利用拡大・地域間交流が「かんたん」

更にSymbolでは、複数トランザクションをアトミック(不可分)に、かつ異チェーン間で行うビルドイン機能を提供しています。

これは地域通貨の利用拡大において非常に強力な武器となるでしょう。

ユースケース③ 地域間交流

ある地域通貨経済圏が成功した場合に、同様システムを近隣地域に広げていき、それを束ねる大きな地域経済圏へと、拡大することがSymbolで実現することが可能です。

各地域の経済圏においてはそれぞれプライベートチェーンでシステム構築をし、一度構築した、地域通貨ソリューションは、ハンコのように他地域に導入を進めていく事ができるようになるでしょう。

近隣・隣接の地域に同様システムが展開された場合、ある地域の価値を、別の地域の価値に交換することが可能になります。

(技術的にいうと、Symbolのクロスチェーンスワップやアグリゲートトランザクションを利用)

つまり、ある地域の貢献活動により得られた価値を、別地域の同質・同量価値と交換し、別地域の商品やサービス提供を受けるといった、地域間の交流も可能になります。

価値交換が活発な地域間では、価値の統合が起こる可能性もあるでしょう。

そして、地域通貨群を取り巻く共助の輪が幾重にも広がっていくのです。

地域通貨にSymbolを採用すべき理由

ここまでの話からお分かりかと思いますが、地域通貨にSymbolを採用すべき理由は

地域通貨の持続利用に不可欠な「スマートコントラクト」に必要十分な機能を、あらかじめプラットフォームが提供してくれている。

からに他なりません。

もっと端的にいうならば、導入から利用促進、その拡張において、

地域通貨を、Symbolのビルドイン機能で「かんたん」に実現できる

と、言い換えてもいいでしょう。

おわりに

地域通貨は、様々なコミュニティにおいて導入されています。

本稿でネガティブに扱った、法定通貨の代替手段としてのクーポン券のような利用が可能な商店街のポイント等もあります。

しかし、長続きしている地域通貨には、やはり地域の価値と組み合わせたサービスが提供されているのが殆どです。

例えば、「武蔵小山パルム」商店街でのみ付与・利用可能なパルムポイントは、長年地域の市民に愛され利用し続けられています。

パルムポイントは、割引クーポンへの変換も可能ですが、年数回行われるイベントの参加権も兼ねています。

福引券の代替であったり、お金つかみ取りチャンスの参加権であったり、と単に法定通貨の代替でなく、付加価値としてのイベント参加権が伴う設計となっています。

これらのポイント利用の場を、運営者が設計しているのが既存の中央集権型システムの限界ではあります。

ここに非中央集権型システムとして、ブロックチェーンを採用すると、ピアツーピアのユーザ主導型イベント等も設計できる事になります。

地域通貨に対する「権利」「体験」を参加者自らが設定することで、地域通貨を媒介とした楽しみ輪が広がっていくことでしょう。

地域通貨を獲得する「地域貢献」の場や手段さえ、参加者が設定することで、地域通貨の流動性は高まっていくのです。

地域通貨の消費と獲得の場を、地域に結びついてデザインできたときに、地域通貨による持続可能な経済圏として機能しはじめます。

そして、Symbolなどで実現可能な、非中央集権システムを構築することで、

消費と獲得のデザインすらも利用者に委ねることで、地域に根差す利用者の共助の広がりにより、地域通貨は経済圏に溶けて拡散していく

ことになるでしょう。

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